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日本ビザ値上げ10日後、単数1.5万円が変えた訪日客の新地図

2026年7月1日から単数約15,000円・数次約30,000円に改定された日本のビザ手数料。48年ぶりの値上げから10日が経過した今、JNTO5月データが示す訪日客の構造変化と、インバウンド事業者が今すぐ把握しておくべきことを整理した。

この記事でわかること

  • 本文に入る前に、まず押さえるべき結論
  • 読後の行動判断が、ここからどう変わるか
  • 次に読むべき関連記事の入口
目次

先週、旦那の職場の同期(上海出身・東京在住10年の彼女)からLINEが届いた。「サクヤさん、日本のビザ、急に高くなったって本当ですか。中国にいる母が来たがっているんですけど……」。

7月1日からのビザ手数料改定のことだ。単数査証が1回約15,000円になった(外務省の表記は「約」で、実際には申請先の在外公館が所在する国の通貨で支払う建て付け)。彼女のお母さんは以前なら3,000円で取れていたビザを、今後は約15,000円払って申請することになる。「来日を延期しようかと言っている」と言っていた。

ぶっちゃけね、私はこのLINEを受け取って、ちゃんと数字で整理しなきゃいけないと思った。「値上げした」という事実だけが独り歩きすると、ビザ免除国から来ている訪日客まで「日本が外国人の締め出しを始めた」みたいな話になる。でも実態はもっとシンプルで、もっと構造的な話だ。施行から10日が経過した今、JNTO(日本政府観光局)の最新統計も交えて、何が変わって何が変わっていないのかを整理しておきたい。

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単数1.5万円・数次3万円、誰が支払う値上げかを整理する

2026年7月1日から施行された日本のビザ手数料改定の内容は、シンプルにまとめると次の通りだ。

ビザ種別改定前(〜2026年6月30日)改定後(2026年7月1日〜)倍率
単数査証(1回入国)3,000円約15,000円約5倍
数次査証(複数回入国)6,000円約30,000円約5倍

※外務省の表記は「約」。実際の支払通貨は申請する在外公館の所在地通貨で、為替によって円換算額は多少変動する。

1978年以来、48年ぶりの改定だ(時事通信2026年6月19日)。茂木敏充外相は記者会見で「物価上昇を踏まえた対応」と説明している。

ぶっちゃけ、私はこれを聞いて「48年間据え置きだったほうが驚く」と思った。コンビニのおにぎりだって30年で倍になっている。欧米諸国のビザ手数料と比較しても、3,000円というのは明らかに低い水準だった。米国の非移民ビザは約185ドル(日本円で2万円超)、EU加盟国が発行するシェンゲンビザは約80ユーロ(約1万3,000円)が目安だ。今回の改定後の約15,000円は、むしろ「欧州並みのコスト水準」に近い数字になったと言える。物価の現実に合わせた改定として理解できる。

では、実際に誰の財布に影響するのか。旦那の同期のお母さんのように「申請が必要な国の人」だ。この「誰に影響するのか」を理解することが、今回のビザ値上げを正確に読む上で一番重要なポイントになる。

ビザが必要な旅行者は全体の何割か、74カ国免除の構造を確認する

日本は現在、短期滞在を目的とした旅行者に対して、74カ国・地域との間でビザ免除の取り決めを結んでいる(外務省)。

具体的にどんな国が免除対象かというと、韓国・台湾・米国・英国・フランス・ドイツ・オーストラリア・カナダ・シンガポールあたりが代表例だ。マレーシア、タイ、インドネシア(一定条件付き)、UAE、カタールなども対象に含まれている。先進国のほぼ全てと、東南アジア・中東の主要な観光国をカバーしている。

これらの国から短期観光目的で日本に来る場合、そもそもビザを申請する必要がない。手数料改定の影響は、ビザが必要な国籍の旅行者に限られる。主に中国、インド、フィリピン(観光目的の一部)などだ。

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ここが重要な数字がある。日本のビザ発給件数のうち、中国人向けが全体の7割超を占めているというデータだ(日本経済新聞)。つまり今回の値上げは、発給件数ベースで見ると「中国人旅行者への実質的なコスト増」として機能する構造になっている。

旦那の同期がショックを受けたのはここだ。「韓国人の友達はビザなしで日本に来られるのに、なんで中国人だけ?」という話が中国の旅行者コミュニティで広がっているのは、データを見れば分かる。もちろんビザ免除は歴史的な外交関係の積み重ねがあってのことだから、単純に比較できるものでもないけれど、旅行者の感情としてはそうなる。

そしてビザ申請には、コストだけでなく「手間」というコストもある。在外公館への来館(代理申請が認められる場合もある)、必要書類の準備(招待状・残高証明・戸籍など)が必要になる。審査期間も通常1〜4週間かかる。約15,000円の金銭的コストに加えて、この手続きの手間と時間が乗ることで、「気軽に行こう」という発想には繋がりにくい。旦那の同期のお母さんが「延期を考えている」のは、金額の話だけじゃなく、こういう心理的ハードルも含まれているはずだ。

インドについても同様で、急増している訪日インド人旅行者にとっては約15,000円の初期コストが追加されることになる。ただし数次査証(約30,000円・複数回入国可)を取得すれば、1回あたりのコストは渡航回数で分散できる。年に複数回日本に来る予定のある旅行者にとっては、数次査証を取得するほうが経済的だ。

JNTO5月-3.6%の謎、中国減少と19市場最高が同時に起きている理由

ビザ値上げが施行された7月以降のJNTOデータはまだ出ていない。直近の公式統計はJNTOが2026年6月17日に発表した「2026年5月推計値」だ。ここでの数字をまず確認しておきたい。

2026年5月の訪日外客数は3,559,900人(約356万人)。前年同月比で3.6%減となり、4月(約369万人・-5.5%)に続いて2か月連続の前年割れとなった(JNTO)。

1月から5月の累計では17,936,000人(約1,794万人)で、前年同期比は-1.1%。訪日需要が崩壊しているわけではないが、過去最高ペースだった2024〜2025年の水準を若干下回る状況が続いている。

このデータを見て「ビザ値上げで訪日客が減った」と解釈するのは完全に間違いだ。値上げの施行日は7月1日。5月のデータには施行の影響がゼロだ。

では何が-3.6%(5月)、-5.5%(4月)の原因か。答えは一言で言えば「中国」だ。

JNTO4月推計値で中国からの訪日客は330,700人。前年同月比で56.8%減という大幅な落ち込みだ。5月の中国市場別データは、現時点でJNTO公式リリースから市場別の数値を直接確認できていないが、4月に引き続き大幅な減少傾向が続いているとみられる。この中国の減少分が、全体の「前年割れ」の主因になっている。

中国人訪日客の減少は2024〜2025年から始まっており、ビザ値上げとは別の要因が積み重なっている。日中関係の不透明感、中国国内での海外旅行の選択肢多様化、円高傾向の影響など、複合的な要因が絡んでいる。ビザ値上げはそこに追加的な圧力を加える形になるが、「値上げが主因で減った」という読み方は時系列的に成立しない。

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一方で、同じ5月に19市場が過去最高を記録しているのが重要なポイントだ。韓国、台湾、米国、マレーシア、インド、中東各国などが訪日客数の記録を更新した(JNTO)。これらは全て、またはほぼビザ免除国だ。ビザ費用とは関係なく、日本への旅行需要が伸び続けている市場群がある。

4月の市場別データを見ると、韓国は878,600人(前年比+21.7%増)と最大の押し上げ要因になった。台湾は643,500人(+19.7%増)と続く。欧米市場も堅調で、フランスは4月の単月として過去最高を記録した(やまとごころ)。

とくにインドの伸びは注目したい。インドからの訪日客は数年前と比べると格段に増えており、2026年に入っても高い成長率が続いている。富裕層を中心とした長期旅行、アニメ・マンガ聖地巡礼、修学旅行・学術交流の増加が背景にある。ビザ申請のコストが約15,000円に上がっても、高い旅行意欲を持つこの市場が大きく萎縮するとは考えにくい。中東各国も同様で、UAEやサウジアラビアから日本を訪れる旅行者は増加傾向が続いている。

この構造は、「中国を除けば訪日需要は好調」という読み方を支持している。訪日観光の人気が落ちているわけではなく、国籍構成が大きく変わっているというのが実態だ。

野村試算1.7%減・2,840億円押し下げを、インバウンド事業者の言葉に翻訳する

値上げ決定前の昨年末(2025年11月)、野村證券はビザ手数料引き上げのインバウンドへの影響を先行して試算している。

試算の内容は「年間訪日客数が約1.7%(63万人)減少、インバウンド消費は約2,840億円押し下げ」というものだ(トラベルボイス2025年11月28日)。GDP影響は約0.05%で、「軽微」という結論を出している。

数字だけ見ると「年間63万人減」は決して少なくない。でも、2025年の年間訪日客数が約4,260万人だった規模感で言えば、1.7%減は許容範囲内の変動だ。インバウンド消費2,840億円の押し下げも、年間消費額の数パーセントに相当する規模。茂木外相が「すぐにインバウンドに影響が出るとは考えていない」と述べた背景に、この「軽微」という見立てがある。

ここで私が注目するのは「誰が減るか」の話だ。

野村試算の前提には「中国人旅行者へのコスト増が主因」という構造が組み込まれている。中国人はビザが必要で、かつ発給件数の7割超を占める。コスト感度の高い旅行層にとって、単数ビザだけで12,000円の追加コストは検討のトリガーになりうる。

一方で、韓国・台湾・欧米・中東・インドからのビザ免除国の旅行者に対しては、野村試算の「1.7%減」はほぼ無関係だ。日本旅行の人気が続く限り、これらの市場からの訪日客は伸び続ける。

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インバウンド事業者への示唆を整理するとこうなる。「来る訪日客の国籍構成が変わっている。それはビザ値上げ以前から始まっていた変化で、今回の改定がその方向性を強化した」。

宿泊業・飲食業・体験業など、訪日客を主要顧客とする事業者にとって、「中国語対応」だけに注力してきた体制は見直しが必要になってくる。ただし「中国語対応を捨てろ」ということではない。中国からの訪日客は絶対数として依然大きく、中長期的な回復の余地もある。「中国一極集中から、多国籍対応への拡張」という発想の転換期として捉えるのが現実的だ。

10日間で変わったこと・変わらなかったことを整理して、次の一歩を決める

施行から10日が経過して、何が変わり、何が変わっていないかをまとめておく。

変わったこと(確認できる事実)

  • 単数ビザ申請コスト: 3,000円→約15,000円(中国・インド等のビザ必要国の旅行者が対象)
  • 数次ビザ申請コスト: 6,000円→約30,000円(同上)
  • 中国からの短期旅行検討者にとっての「渡航ハードル」: 金銭的に上昇

変わらなかったこと(データが示す現実)

  • 韓国・台湾・米国・欧州・東南アジア(ビザ免除国)からの日本旅行需要
  • 日本の観光地・飲食・宿泊への総需要の底堅さ
  • 円安基調(日本が旅行先として割安な市場環境)

変わりつつあること(今後の方向性)

  • 訪日客の国籍構成(中国一極依存から韓国・台湾・欧米・中東・インドへの多様化)
  • インバウンド事業者が注力すべき多言語対応の優先順位

インバウンド事業者として今週着手できることを4つ挙げる。

1. 多言語レビューの言語別件数を確認する Google・Tripadvisor・楽天トラベルでの口コミを言語別に集計してみる。中国語簡体字の比率が下がり、韓国語・英語・繁体字・アラビア語の比率が上がってきているなら、それは客層シフトの先行指標だ。

2. SNS広告の言語設定を見直す WeChat系プロモーションに集中投資してきた場合、韓国語・英語・繁体字の広告比率を上げるタイミングに来ている可能性がある。Instagramでの英語コンテンツや、Naverブログ・韓国YouTube向けコンテンツの整備は費用対効果が高くなってきている。

3. 決済対応の多様化を進める Alipay・WeChatPayに特化してきた場合、Apple Pay・Visa Contactlessのインフラが中東・インド旅行者に刺さる。韓国旅行者にはKakaoPayや楽天ペイへの対応も有効だ。PayPayも訪日韓国人には馴染みがある。

4. 中国市場の回復を見据えた準備を止めない 中国からの訪日客が減っている今こそ、「中国語対応のインフラ整備」をコスパよく進められる時期でもある。ピーク時に比べて中国語対応コストが下がっている体験施設や宿泊業者もある。中長期的な回復を信じるなら、今のうちに多言語スタッフの育成や予約システムの整備を進めておくのは合理的な選択だ。

まとめ

ビザ手数料約5倍という数字は確かに刺激的だ。正確に読むと、影響を受けるのは「ビザが必要な国の旅行者(主に中国・インド等)」であり、74カ国・地域のビザ免除国の旅行者にはほぼ関係ない話だ。

JNTO5月データが示す「-3.6%の中に19市場の過去最高が共存する」という逆説は、すでにその変化が起きていることを教えている。中国客の減少はビザ値上げ以前から続いており、今回の施行がその傾向をさらに強化する可能性はある。しかし韓国・台湾・欧米・中東・インドからの需要が確実に育ってきている。

野村試算が「年間1.7%減・GDP影響0.05%・軽微」と結論づけたように、訪日需要の全体像が崩れるシナリオは考えにくい。ただ「誰が来るか」の構成は着実に変わっている。

旦那の同期のお母さんへのアドバイスは、こう伝えた。「単数ビザは約15,000円になったけど、数次査証(約30,000円)を取得すれば、有効期間中は何度でも入国できる。有効期間は申請先の在外公館や渡航実績によって1年・3年・5年など異なるから、詳細は各在外公館に確認してほしい。1回の滞在は最大90日以内(短期滞在)が目安。年に複数回来る予定があるなら、数次のほうが1回あたりのコストは確実に下がる。最初の申請コストは上がったけど、日本に来る価値があるかどうかの話とは別だよ」と。

8月以降、JNTOの6月・7月データが出始めると、施行後の実際の影響が数字で見えてくる。そのタイミングで改めて整理する予定だ。


サクヤ

サクヤ
Written byサクヤLifestyle Realist

ぶっちゃけ、続かない改善は意味がないんです。家計も家事も、楽になるか・続くか・家族に返ってくるか。その3つでしか見ません。AIも同じ。暮らしの現場で使える形に落ちるかどうかで判断しています。